本棚を整理していると、薄汚れた文庫本がたくさん出てきた。表紙を見てすぐにわかった。昔、深夜番組「文學ト云フ事」でおすすめされた、文学史上に残る傑作の数々だと。
「文學ト云フ事」とは
『文學ト云フ事』は、フジテレビの深夜帯で1994年4月12日から10月4日まで放送された番組である。キャッチコピーは、「この番組は文學を読むための壮大な予告編である。」
毎回、一冊の文学作品を取り上げ、予告映像を作ったり、漫才のような掛け合いで作品解説をしたり、極めて難解なクイズ(この小説の中には「、」が何個ある? など)のコーナーがあるなど、ブッとんだ教養番組だった。
調べてみるとYoutubeで予告編がまとめられ、番組内容もテキスト化されていた。
というわけで、番組内で紹介された18作品を紹介してみる。
1. 「友情」武者小路実篤
恋はあまりにも、残酷だった。
文学史上、最も健全な青春恋愛小説!!
杉子が好きな野島は親友の大宮に助力を願う。しかし杉子が好きなのは大宮だった。約束を守るため杉子に冷たくしつづけ、挙句パリへ旅立つ大宮。杉子は野島の愛を拒否し、大宮に愛の手紙を送る。苦しむ野島、どうする?どうする?という話。
予告編の感想
井出薫がかわいかった。モテない男、野島の叫ぶところが最高。
2. 「三四郎」夏目漱石
恋はあまりにも、難解だった。
文学史上にさん然と輝く青春小説の金字塔!
東大に入学し熊本から上京してきた三四郎が、自由気ままな女性美禰子と出会い翻弄される姿を描く。「迷子の英訳を知っていらして?」と問われて、質問の意味が分からず答えられない三四郎。あまりにも難解すぎる。
予告編の感想
井出薫がかわいかった。一番好きな予告編かもしれない。
3. 「みずうみ」川端康成
恋はあまりにも、罪悪だった。
文学史上、最もスリリングな知的冒険小説!!
マジモンのストーカーの話。美しい女性の後をつけてしまう高校教師、つけられることに快感を覚える魔性の女。交差する二人の想いを描く、やばすぎる変態小説。
予告編の感想
井出薫がやばいほどかわいかった。男の笑顔が不気味すぎる。
4. 「人間失格」太宰治
恋はあまりにも、地獄だった。
文学史上最も壮絶な魂の叫び!!
「恥の多い生涯を送って来ました」という告白からはじまる男の手記。取り返しのつかない過ちを犯した自分を人間失格と言い切る。しかし男に対する周囲の評判は、すこぶる良い。自分を偽って生きてきた男の話。10代で読むと、ハマってしまう。20代だともう遅いかも。
予告編の感想
緒川たまきがやっぱりかわいかった。
5. 「雁」森鴎外
恋はあまりにも、すれちがいだった。
文学史上最も痛切な青春のノスタルジー!!
結婚に失敗し、自殺にも失敗した女は、高利貸し末造の妾となった。大学生岡田と出会い、二人の恋は燃え上がる。
予告編の感想
井出薫がかわいかった。大学生を演じる袴田吉彦の蛇の殺し方が残酷。
6. 「蓼喰う虫」谷崎潤一郎
恋はあまりにも、不実だった。
文学史上に妖しく輝く、谷崎美学の珠玉作!!
冷めきった夫婦の話。それぞれ別の相手がいるも、子供がいるから離婚には踏み切れない。破綻した二人のとる決断は? 谷崎潤一郎の私生活が反映された赤裸々作品。文豪はやっぱりハンパない。
予告編の感想
緒川たまきのうなじが魅力的だった。
7. 「オリンポスの果実」田中英光
恋はあまりにも、幼稚だった。
文学史上究極の告白日記小説!!
純愛、ここに極まれりという話。田中英光の経験した事実に基づいた私小説。甘酸っぱい。純すぎて、いま読むと眩しすぎるかも。
予告編の感想
使用された曲、Elton John「Your Name」が好き。
8. 「蒲団」田山花袋
恋はあまりにも、不道徳だった。
文学史上"近代"をもたらした自然主義の快作!!
弟子にした女に恋をしてしまった小説家。妻もいて、倫理的にも許されない状況。苦しむ日々。そして、去ってしまった女の蒲団にしがみつき匂いを嗅ぐ。驚くべきことに、それを作品にしてしまう田山花袋。マジで赤裸々すぎる。
予告編の感想
蒲団にしがみつくシーンとか、最高。
9. 「箱男」安部公房
恋はあまりにも無垢だった。
文学史上、最も先鋭なる前衛官能小説(アヴァンギャルド・ポルノグラフィー)!!
見られるのは絶対イヤだけど、見たい。どうすればいいか?ダンボール箱をかぶればいい!そして、都市を彷徨する箱男。その先には贋箱男の登場、そしてあやしい看護婦との絶望的な愛が待っていた。実験的過ぎる官能小説。
予告編の感想
なんだかんだ言って、緒川たまきが最高。
10. 「野菊の墓」伊藤左千夫
恋はあまりにも、一途だった。
文学史上、究極の純愛失恋小説!!
いとこ同士の政夫と民子。好き好き同士も二人の想いは遂げられず、引き裂かれる。数年後、民子危篤の知らせを受ける政夫。民子の元へ急ぐ彼は民子の手にするあるものを見て胸が締め付けられる。タイトルを見るだけでも、切なくなる。
予告編の感想
井出薫がかわいかった。政夫の走るシーンが良かった。
11. 「斜陽」太宰治
恋はあまりにも、革命だった。
太宰文学の集大成!!
没落する貴族の一家。貴婦人である母は、滅びるのを待つばかり。「愛と革命」のために生きるかず子、麻薬中毒で朽ち果てていく直治。避けられない破滅へと突き進む人々に胸が痛くなる名作。
予告編の感想
緒川たまきがステキだった。本当の映画予告編のような感じ。
12. 「美徳のよろめき」三島由紀夫
恋はあまりにも、一人芝居だった。
文学史上他の追従を許さぬ耽美主義の傑作!!
ちゃんとしてるステキな奥さんがよろめいちゃう話。やっぱり三島由紀夫も変態。ていうか、文学史上に名を残す文豪の多くが変態なんじゃないかと思う。
予告編の感想
マッサージで妊娠してるかどうかわかるんだーって思った。
13. 「夢十夜」夏目漱石
恋はあまりにも、永遠だった。
日本文学史上、不滅の夢語り。
夏目漱石が描く夢の話。心のなかに潜む「恐怖・不安・虚無」がテーマとなり、不思議なシーン、詩的なセリフの応酬がつづく。短編なのでさくさくっと読める。
予告編の感想
「100年待っていてください」という宝生舞が美しかった。
14. 「老妓抄」岡本かの子
恋はあまりにも、不可解だった。
日本文学史上、屈指の名短編!!
岡本太郎のお母さん、岡本かの子が書いた話。
予告編の感想
いずれにしても、井出薫がかわいかった。
15. 「朝雲」川端康成
恋はあまりにも、幻影だった。
日本文学史上、最も純潔なる青春少女小説!!
女教師に憧れる、女生徒の想いを描いた話。エロティックな描写がハンパない。川端康成はやっぱり天才だと思う。
予告編の感想
先生役の緒川たまきが魅力的だった。
16. 「青年」森鴎外
恋はあまりにも、無残だった。
日本文学史上最高の青春教養小説!
未亡人に恋した作家志望の青年。しかし、いろいろあって彼女を「美しい肉の塊」にすぎないと感じる。書くことに悩んでいた青年は「なんか書けそうな気がする!」ってなる。
予告編の感想
井出薫がかわいかった。
17. 「或る少女の死まで」室生犀星
恋はあまりにも、悲哀だった。
詩壇の鬼才が放つ日本文学史上最も純粋な自叙伝!!
死んでしまいそうな少女、それを見守る別世界に住む男の話。
予告編の感想
「おサルはかわいい」って言う、ともさかりえがかわいかった。
18. 「浮雲」二葉亭四迷
恋はあまりにも、近代だった。
日本近代文学の幕あけを飾る記念すべき第1作!
この作品以前は、話し言葉と書き言葉はまったくかけ離れていたという。言文一致体小説を書くために、二葉亭四迷は一度ロシア語で執筆し、それを翻訳するなど、悩み抜いて完成させたという。いまの当たり前が、当時は革命だったというエピソードを聞くと、心して読まねばならないと思ってしまう。でも、すごく読みづらい。
予告編の感想
井出薫がかわいかった。最終回だったので、すごく切なく視聴した記憶がある。
まとめ
予告編に出てきた女の子が総じてかわいかった。とくに井出薫がかわいかった。
そして、この「文學ト云フ事」の演出家、片岡K氏が井出薫と結婚したと知ったとき、すごく悔しかったのを覚えている。
この18冊、時間ができたら読み返してみよう。