人は死んだら、山を登り、川を越えて、七回の裁判を受け、六つの世界のいずれかに転生する。葬式仏教では、その前提で、葬儀も、法事も行われる。
死後の世界は、宗教によって大きく異なる。実際には誰も見たことがないため、想像力が掻き立てられるフィクションとも言える。誰もが一度は考える「死んだらどうなる?」の疑問。葬式仏教の考えをまとめた。
1.「死出の山」を登る
人は死ぬと、目の前にそびえ立つ死出の山を7日かけて越える。山の尾根を800里(古代の1里換算で、約400キロ)、歩くことになる。
死出の山を超えると、大きな川が見えてくる。三途の川だ。
2.「三途の川」を渡る
三途の川は、生前の罪の重さにより、三種類の渡り方があった。
- 善人は、金銀七宝で作られた美しい橋を渡る
- 罪の浅い者は、山水瀬と呼ばれる浅瀬を渡る
- 罪の深い者は、江深淵と呼ばれる激流を泳いで渡る
しかし、現代では、罪の重さは関係なく、渡し船が用意されている。
渡し船には船賃「六文銭」が必要
船賃として、六文銭が必要になる。地獄の沙汰も金次第。火葬の際、船賃に困らぬよう、棺に六文銭、現在では紙に印刷した「冥銭」が入れられるのはこのためだ。
かつて旅人は、いつ死んでも困らぬように、服に六文銭を縫い付けていたという。また、戦国時代の真田家の家紋は、六文銭を模したもの。いつ死んでも三途の川を渡れるように、という思いが込められていた。
船賃がないと「懸衣翁」「奪衣婆」に服を脱がされる
船賃がないと、おばあさん「奪衣婆」、おじいさん「懸衣翁」に服を脱がされる。脱いだ服を枝に掛けると、罪の重さによってしなり具合が変わる。枝が大きくしなる罪深き人は、その後の裁判において不利となる。
「賽の河原」には親より先に死んだ子供
三途の川の河原は、賽の河原とよばれる。そこには、親より先に死んだ子供たちの姿。「石の塔を完成させれば救われる」と言われ、懸命に石を積み上げる。しかし、塔が完成することはない。途中で鬼が現れ、積み上げた石を壊すからだ。
生前、お地蔵さんにお祈りしていた子供には、救いの手が差し伸べられる。地蔵菩薩が助けに来る。
3.「裁判」を受ける
49日目の泰山王の判決で、生まれ変わる先が決定する。
No | 日付 | 十王の名前 | 本地 |
---|---|---|---|
1 | 初七日 | 秦広王 | 不動明王 |
2 | 二七日 | 初江王 | 釈迦如来 |
3 | 三七日 | 宋帝王 | 文殊菩薩 |
4 | 四七日 | 五官王 | 普賢菩薩 |
5 | 五七日 | 閻魔王 | 地蔵菩薩 |
6 | 六七日 | 変成王 | 弥勒菩薩 |
7 | 七七日 | 泰山王 | 薬師如来 |
8 | 百か日 | 平等王 | 観音菩薩 |
9 | 一周忌 | 都市王 | 勢至菩薩 |
10 | 三回忌 | 五道転輪王 | 阿弥陀如来 |
11 | 七回忌 | 蓮華王 | 阿閦如来 |
12 | 十三回忌 | 祇園王 | 大日如来 |
13 | 三十三回忌 | 法界王 | 虚空蔵菩薩 |
追善供養
裁判の当日、現世に残る遺族たちは集まり、裁判に不利にならぬよう祈る。少しでも刑が軽くなるよう、情状酌量の余地を祈りによって得ようとするのだ。その祈りがない場合は、刑が重くなり、地獄に落ちる可能性が高まる。
8回目以降の追加の裁判は、救い損ないをなくすための受け皿として機能している。
4.「六道」のいずれかに転生する
生まれ変わる先は、6つ。泰山王の裁判の後、このいずれかの世界に転生する。
天道(てんどう)
天人が住む世界。寿命は非常に長く、苦しみもほとんどない。空を飛ぶことができ享楽のうちに生涯を過ごす。
人間道(にんげんどう)
人間が住む世界。四苦八苦に悩まされる苦しみの大きい世界であるが、苦しみが続くばかりではなく楽しみもある。
修羅道(しゅらどう)
阿修羅の住む世界。暴力が蔓延し、終始戦い、争いつづける宿命となる。苦しみや怒りが絶えることがない。
畜生道(ちくしょうどう)
牛馬など畜生の世界。ほとんど本能ばかりで生きており、使役され、なされるがままに生きることとなる。
餓鬼道(がきどう)
餓鬼の世界。餓鬼は腹が膨れた姿の鬼で、食べ物を口に入れようとすると火となってしまい餓えと渇きに悩まされる。
地獄道(じごくどう)
罪の重さによって服役すべき場所が決まっている。焦熱地獄、極寒地獄、賽の河原、阿鼻地獄、叫喚地獄などがある。もっとも、みうらじゅん氏の解説によれば、地獄は128種類があるという。嘘をついても、虫を殺しても、生き物を殺して肉を食べても、地獄行きは決定となる。詳細は、書籍「マイ仏教」を参考のこと。
できれば、また、人間道に生まれ変わりたいものだ。
死後の世界を描いたおすすめ作品3選
長年にわたって形作られてきた死後の世界。もちろん、様々な作品のモチーフとなっている。書籍、落語、演劇、映画、などなど。代表的な作品を紹介する。
1.絵本「地獄」
わがままな子供に読み聞かせをすると、ウソのように言うことを聞くという魔法の絵本。ただし、誤った教育方法だという指摘も。読まれた子供のトラウマになることは間違いないので注意が必要だ。
2.落語「地獄八景亡者戯」
- アーティスト:桂米朝
- 発売日: 1991/01/23
- メディア: CD
落語の世界では、死後の世界をおちょくりまくる。死後の世界を笑いに変えるのは不謹慎かとおもいきや、一級のエンタテインメントに仕上がっている。通説を知った上で聴くとより一層楽しめる作品。
3.映画「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」
宮藤官九郎、脚本・監督の地獄エンタテインメント。劇中シーンと酷似した、スキーバスの事故が実際に起ったため、公開延期となるも、6月24日に改めて公開。
フツーの高校生・大助は、修学旅行中のある日、不慮の事故に遭ってしまう。目覚めるとそこは―深紅に染まった空と炎、ドクロが転がり、人々が責め苦を受ける、ホンモノの【地獄】だった。慌てる大助を待ち受けていたのは、地獄専属ロックバンドを率いる赤鬼のキラーK。えんま様の裁きにより現世に転生するチャンスがあるという。キラーKの“鬼特訓”のもと、生き返りを賭けた、大助の地獄めぐりが幕を明ける。
死んだらどうなる?「葬式仏教」にみる死後の世界、まとめ
死んだらどうなる、という疑問は皆が一度は持つもの。しかし、それは死んでからのお楽しみ。それまでは精一杯生きて、人生をまっとうしたいものだ。